新しい形の支援プログラム
あるホテルのロビーで、黙々とエレベータの清掃をしている若い男性従業員。客がそばを通り過ぎて車に乗り込んでいるのに、彼は作業をやめない。その時、そばで彼を見ていた若い女性が声をかけた。「挨拶は?」
実は、これがこの女性の「課題」なのだ。女性はアメリカのペンシルベニア州ピッツバーグ市にあるデュケイン大学の学生。高機能自閉症があるこの男性従業員にとって初めてのフルタイム勤務となるこの仕事で、指導を担当することになったのである。
このような光景こそが、デュケイン大学の教育学部特別教育学科のアン・ファン助教授が主導する、職場における自閉症の人々の支援を目的とした新しいプログラムが目指すところだ。
アスペルガー症候群やその他の高機能自閉症は、コミュニケーション能力に影響を与える神経生物学的障害で、仕事の内容そのものは比較的スムーズに覚えられるにも関わらず、他人との接し方がわからないといった特徴を持つ。
そんな人々を支援するファン助教授のプログラムとは、「指導担当者」とペアを組ませて就労に当たらせ、上司や同僚、顧客などとの接し方をその都度指導する、というものだ。
コミュニケーションに難しさがある自閉症
「自閉症の子どもの中には、挨拶をされても、目を見て返事ができなかったり、全くリアクションを見せない子もいます。逆に、他人との距離のとり方が分からず、誰にでも馴れ馴れしすぎる子もいます。嗅覚がとても鋭い子で、例えば特定のシャンプーの匂いが好きな子の中には、その匂いがする人に異様に近づこうとして、相手に不快な思いをさせたり怖がらせたりすることもあります」とファン助教授は言う。
そのような特徴を持ったまま成人した人々に対する指導方法の一つとして考案されたのが、社会的ルールを知る同年代の者とペアを組むペア就労だった。
アメリカにおける自閉症の成人の非雇用率は80%を超えており、たった20%の雇用されている人々の大半がパートタイムなどの短時間労働だといわれている今の時代、仕事のやり方を教えるだけではなく、他人に対してどう接するかを指導していく必要があるのである。
本格的な運用が決定
ペア就労プログラムは、近隣の学校との協力で、ダウン症や自閉症などの障害を持つ生徒達に対する試験的運用が実施された。そして先日、ペンシルベニア州西部全域にわたる7,000人の学生達を対象に、プログラムが本格的に実施されることが決まった。
参加するのは、発達障害のある子ども達とその家族を支援する地元企業「ウィーズリー・スペクトラム・サービス」社で支援を受ける学生達だ。現在は養ってくれる親の元で生活している生徒達も、いずれは自立しなければならないのである。
(編集部 小川優子)
Duquesne U. Special Education Professor Ann Huang Creates Mentor Program for Autism Employment
http://www.ageofautism.com/2010/04/duquesne-u-special-education-professor-ann-huang-creates-mentor-program-for-autism-employment.html
Ann X. Huang - School of Education, Duquesne University
http://www.duq.edu/education/Faculty-Staff/huang.cfm